月刊    2027塩江温泉村 

19 「2027年までの10年に何があったのか」 

”塩江温泉村”というのは仮想の村で、旧塩江町をほぼイメージして名付けている。

村の中では、行政に頼りすぎるのではなく、自分達や塩江に想いのある人たちの手で村を興していこうということになった。日本中、世界に散らばっている塩江OB達も賛同してくれて、これならやっていけそうだという気運が高まった。

どう進んだのか。

ラインのインフラは行政に維持してもらう。道路、上下水道、河川、通信。

一方、点の設備は主に村や民で運営して行政がサポートする。学校、病院、介護系施設、集会場、美術館、道の駅、温泉、、。

と腹をくくった。

とはいえ、何はともあれ、人が行き交う手段の確保は重要課題。この広い山間部を動き回れる環境は、住民にとってもここを訪れる人たちにも必要なインフラ。自家用車だけでは先が見えている。自動車メーカーやIT企業の支援を受けて無人運転の小型バスの実証実験を経て、山間部における交通インフラのモデルケースを構築して、運営に至る。システムが村内のバスや自動車の運転状況や予約状況を一手に引き受けて管理運営している。これは、村内全域にインターネット網が張り巡らされ、IoT環境が容易に作れる環境があったのが大きい。

幹線は、小型バスが利用者のニーズを見ながら運行する。家までのラスト何キロかは、シェアカー。これも自動運転なので、家まで乗せてくれたら後は勝手に次の乗客のところに向かう。

電動自転車や屋根付きの3輪バイクもシェアできて、村内周遊者などに人気だ。

こうした徹底した交通システムが、物珍しさも手伝って全国各地や海外から人を連れてくるようになった。これなら生活できると移住者も増えてきた。

更には、永続的なクラウドファンディングというか、塩江温泉村のサポート会員を募集。返礼は、地元で採れた野菜や産品をプレゼントしたり、塩江に来た時に各種施設やイベントへの招待や優待サービスを提供する。毎日更新される動画SNSは、会員に好評だ。

ここに住み続けるには、なりわいとなるお仕事メニューのバリエーションが必要と、放置された農地は、農業法人が買取や借り上げて農作物を育てるのはもちろん、2次3次産業へと展開して付加価値をつけて流通にのせるとともに、クラウドファンディングのお礼品、キャンパーへの食材の提供。就農者や海外からの技能実習生もこの村に入ってきて、少しずつ賑やかになっている。

レクリエーションやスポーツの事業は、遊ぶ場所はいくらでもあるし、ダム湖も2つある。全域を遊び場所にしたらいい。サイクリングやツーリングコースは、山並みの間にいくつもある。キャンピング、グランピングもいろいろな楽しみ方ができるよう整備するし、上級者向けに穴場スポットも紹介。トレッキングもいい。プレイヤーのサポートやインストラクターのお仕事あり。ダブルワーク、トリプルワークで生活できる環境が整ってきた。

運動場はドッグラン(カフェ)+ペットと泊まれる宿 →飲食、宿泊業

隠れ家的一軒家の民宿(讃岐平野が一望できる場所もある) →飲食、宿泊業

子供を安心して預けられる託児所、保育所 →シッター、教育保育士

研修所、塾の合宿所、○○の学校(セミナーハウス) →管理人、リネンサプライヤー

医療、介護といったトータルケアを温泉設備とセットで →各医療、介護などの従事者

ドローンでの宅配 →運送業

森林の保護と維持と活用 →竹炭、木炭、薪、製材、家具製造、家屋リノベーション

バイカー、サイクリストにやさしい村、、、これはお接待

、、、などなど。

こうなったのには、やはり地元民含め関係する人たちが共通の想いを抱いて、気持ちを一つにして取組んだ結果に過ぎない。いや、結果ではない、まだまだ道半ば。


そして、語らずにいられないのは、何といっても温泉の開発にある。六角堂やその付近から湧き出ている硫黄泉をかき集めると、湧出量としては100リットル/分程になった。自然湧出で日量150トンだ。湧出量の目途が立ったら次は温かい温泉水を求めて掘削した。昔調査した地層どおりに掘り進めると徐々に温度が上がり、量も増え、新しい道の駅の温浴施設や医療施設に温かい療養泉を供給できるのみならず、近隣のホテル旅館でも硫黄の匂い漂う温泉らしい温泉風呂を提供できるようになった。また、道の駅では自宅のふろ用に温泉水を販売して人気を呼ぶ。高濃度の硫黄泉なので、500ミリリットルのペットボトルの温泉水を自宅の浴槽に入れるだけで温泉気分が味わえる。また、硫黄泉の適応症として認められている慢性皮膚病には効果があって、アトピーや湿疹に悩む人たちに瞬く間に拡がり、評判となった。古くは、行基、空海、また明治大正時代の尾形多五郎の湯治の勧めが令和の今、ようやく広く浸透することとなった。