5 つよっさん

不思議だ、このつよっさんという男の人。初めて会ったのにずっと前から知っているようなこの親近感と安心感。太市おじいちゃんやのぶゑばあちゃんもそう。こちらからろくに自己紹介もしていないのにすぐに私を受け入れてくれている。すぐに心地いい時間になってくる。血がつながってるというのは理屈じゃない目に見えない繋がりがあるのかなぁと感じながら、つよっさんの横顔を見ながらついていく。

「わかばちゃん、この白い建物、元学校だったって分かるやろ、小学校だったんや、12年になるかの、廃校になって。ここら辺の人も学校がなしになって寂しがっとったんやけど、見てんまい、結構人がおるやろ。」

人が使っている建物かそうでない建物かは、わかばにもわかる。東京でも人が住まなくなった古家やマンション、商業施設だったところが使われずそのままさらされているところはたくさんある。今の家に移ってすぐの頃なので小学3年の時だったか、父の祐介と近所を散歩している時にこんな会話をしたのを覚えている。

「建物とか人間が作ったものってな、どうしてなのかお父さんも分からないけど風とか空気がいるようなんだ。ほら、あそこに家が数件あるだろ、たぶんおんなじ時期に建てられたんだろう。左の端っこのうちは空き家になってるはずだ。なんか違うだろ?」

「そうだね、何か寂しそうな感じがする」

「うん、活気がないっていうか、どんよりしてるよね。人が住んでいたら家の手入れをするとかいうのはあるんだろうけど、生き物ではないのに、空気が通る、風が入るっていうのは大事みたいに思うね。」

その旧小学校はというと、わかばには生き生きしているように見える。校舎であった建物の窓が開け放たれて、運動場や体育館、その周辺もすべて爽やかな風が通っている。周囲を囲む山々の木々や畑の作物もその風を醸し出しているようで、夏の真っ盛りとは思えない清々しさ。それに加えて、色々なものに手入れが行き届いているのが伝わってくる。埋め込みの草花、木々の枝、運動場の土、それと運動場の隣の畑にはわかばにもわかるラベンダーや何種類かのハーブが生き生きと植わっている。開け放たれた校舎の窓からは子供たちの黄色い声が聞こえるし、体育館の中からはテンポのいい音楽も流れ聞こえてくる。

「つよしおじいちゃん、ここ、今は学校じゃないんでしょ?何をしてるの、何か賑やかそう」

「そやろ、夏休み中というのもあっていろんな人らがここ使いよるわ。体育館は、現代サーカスの子らが集まって練習しょんやけど、 今日はそこに小学生らが親御さんと来て一緒にサーカスの技にチャレンジしよるわ。校舎の中でも、親子がいろんなことしよるわ、泊まり込みのグループもおるわ。ほんで、俺、おじいちゃんには違いないけど、つよっさんでかまんけんの、呼ぶんは。」